2015年3月14日土曜日

ダイルクロコダイル氏 おはなしおはなし...




「最北島、地の果てのピアニスト」


この絵も、随分前に描いたので、どういう気持でこれを描いたのか
全然覚えていない

でも、今改めて観てみると...

観てみると???

うーん、やっぱり、よく判らない!


だけど...

この絵にはなんとなくストーリーが見える


では、この絵から聴こえてくるお話を致しましょう〜!



*     *     *     *     *     *     *



昨日まで嵐が来ていた最北の島の天気はいつも悪いのですが、
この日は珍しく,太陽が出ていました。

【海藻が固まって珊瑚のようになりその一帯は
ピンクがかったミルク色のビーチになった。
そしてそこにはとても美しい人魚が暮らしている】

と言われている、海岸のある島を
訪れたダイルクロコダイル氏は
朝早くからそのビーチを探して、歩き回っています。


私は、ナイル生まれだからだろうか?
こういう冷たい北の僻地の、誰もいない、何もない荒野にいると
恐ろしくて、ぞくぞくしてしまう。
でも今日の天気だと、この荒野も少しばかり優しく見える
いつもの、あの荒々しく恐ろしい姿を
今日は私のために引っ込めてくれている

この天気だったら、怖くない!

今日はチャンスだ!

そう思って、朝食も食べずに,何時間も歩きどうしでいた
ダイルクロコダイル氏は、いいかげんおなかも空いたし
足がクタクタになってしまったので
美味しい田舎料理を出してくれるパブでもないか
と近くの村へ向かうことにしました。


暫く歩くと、遠くからピアノの音が聴こえて来ました。
人里離れたこの荒野で!僻地で!
ピアノの音を聴いたダイルクロコダイル氏は
まるで都会のあの居心地のよい自分の部屋に
一瞬戻ったような気持になりました。

美しい音色に惹かれてその音のする方へ歩いて行くと
どうやら、それは海を見下ろす丘の上に、
ぽつんと建っている、あの小屋から
聴こえてくるようです。

疲れていたダイルクロコダイル氏ですが、
丘を登り小屋の方へ行ってみることにしました。
小屋には小さな窓があったので、そっと覗いてみると
グランドピアノを弾いている
厳つい顔をした大きな男の姿が見えました。

ダイルクロコダイル氏は、そのままの姿勢で
小窓に顔を押し付けながらしばらく聴いていましたが
どうしようもなく足がくたびれてしまったので
そこにあるベンチに腰掛け
美しく、優しく軽やかな
でも少し悲しげなピアノ曲を
聴かせてもらうことにしました。

一曲終わった時に
思わず拍手をしてしまったダイルクロコダイル氏に
気がついた大男は、小さなドアから首を縮めて外に出てきました。
両手をいっぱいに広げて大きく伸びをすると
ダイルクロコダイル氏をちらりと見ました。
そして、にこりともせずに、厳つい顔のまま
ベンチに腰掛けると、まっすぐ海の方を向いたままで
今作曲しているピアノ曲の説明を始めました。

しばらく話した後、時計をみると言いました

「そこにあるパブで、ビールでもどうだ?」


その厳しい顔に似合わず、お喋りな大男は
数パイントのビールを飲みながら、自分の作品のことだけではなく、
生い立ちから、どうしてこの島に来ることになったのか、など
次ぎから次ぎへと話し続けました。

大男の名前はウィリアムといい、本当の職業は庭師なのだという。
それが、どういう訳で,作曲家になったのか...
それを、長い時間をかけて,ダイルクロコダイル氏に話しました。

クジャク夫人のもとで訓練されているダイルクロコダイル氏は
長い話を聴くことには慣れていました。
それにしてもこの大男の話は、
クジャク夫人のそれに勝るとも劣らず延々と続くのでした。




父親の後を継いで、庭師になったもの
夢だった作曲家になることを諦めることが出来ず
庭師の仕事をやりながら、ピアノ曲を創り続けていました。
しかし、どうしても思うような曲を創ることが出来ずに
悩んでいるたウィリアムは、友人と一緒に旅行中、偶然立ち寄った
この北の僻地の島で、ミューズと出会い恋に堕ちました。
そしてその時、世界は言葉どおり、バラ色に一変したのです。
彼の頭の中ではバラの咲く音が鳴り響き
手とピアノを使ってそれらの音を捕まえるように弾き始めました。
そして、庭師の仕事をキッパリと捨て
作曲に没頭するようになりました。
しかし、永遠に続くと思っていた数年の幸福な日々は
あっという間に過ぎ、恋が終わりをつげました、
ミューズがたち去り、ウィリアムは不幸の沼へ落ちてしまったのです。
そして、その不幸をひとつづつ確認するように
暗く寒く長く続く島の冬の中で、自分自身を痛め続けたのです。
しかし、恋の力が、ウィリアムに魔法をかけ、作曲をさせたように
失恋も、またそれと同じ力を持っていました。
悲しみの沼から這い出すためにもピアノに触れなければ
と、まるで見えない失恋のミューズに背中を押される様に
ウィリアムはピアノに向かったのです。
そして、あの時と同じ様に、頭の中で鳴り響く音を追いかけ
溢れ出て来る音を、狂ったように五線譜に書き留めるのでした。

そして、今、彼の創りだした曲の数々は
映画やドラマなど,色々な場面で使われる様になりました。
厳つい顔をした大男に似つかわしくなく
優しく美しく、軽やかだけど悲し過ぎるこの音色は
彼の人生そのものだったのです...


長い長い話を短くすると、まあこんな感じになるのでした。


やっと話が終わった頃には、外はもう暗くなって、風も出て来て
パブから出た時には、雨が降り始めていました。

今夜からまた、この島には嵐が来るそうです。


つまり、今回はあの人魚のいる美しいミルク色のビーチを
見つけることは、出来そうもない

ということです。


ホテルの部屋に戻り
ヒューヒューうなりながら、だんだん強くなっている風の音を聴いていると
ウィリアムの奏でるピアノ曲が一緒に聴こえてくるようでした。

暖かいお風呂から出て、気持ちの良いベッドに入りながら
つくづく思うことは

「この島に来た目的を今回果たせなかったけれど
その代わりとなる,素晴らしい出会いもあったし
やっぱりこの島に来て良かった」

ということ...


クタクタに疲れていたダイルクロコダイル氏は
ベッドにはいると本も開かずに、寝てしまいました。