2015年2月23日月曜日

身を引き締めてくれる、恐怖の感覚

「失われた世界、ジュラ島」


スコットランド山岳地方



先日忙しく東京で働いている友人が、
出張先のマウイからお便りをくれた

「 風が気持よい 」


と、それだけ。


うーんわかる〜!

ハワイが最高!とやっぱり思ってしまう私にとって
あの風の気持よさは、ハワイが好きな理由のほんの一部なんだけれど
でも、結局は、それが全てだと、思えてしまうから 



あーあ、私も、バカンスには、ハワイに行って、あの気持の良い
爽やかな風の中で

ただただ、海をボーと,見て過ごしたい
のんびりと、リラックスして過ごしたい 


な の に…


なぜか、私のホリデー方面は
『寒いところでハードに山歩き』が、多いのであります。 


ま、ちょっと訳があったからしょうがないのだけれど、でも
本当は、暖かくて、気持ちの良い風が吹いている、島に行きたいのだ!




しかし、不思議なもので

しょうがなく(贅沢だけど)北の寒々とした
島に行くようになって

私は、いつのまにかそこの魅惑の沼に引き込まれてしまったのでした。





私が、北の国というのはスコットランドの事。

スコットランドの西側には、小さな島が沢山点在していて
私は、もしかしたら、日本人一じゃないだろうか?
なんて、思うぐらい、色々な島を訪れた。

それぞれが意外に千差万別で、面白い。
もう一度行ってみたいと思っている島も5つ程ある。

その一つが、ウェストコーストからそれ程離れていない所に
位置する ジュラ島。
ここは、メインランドから遠く離れているわけではないのだけれど
渡るのに、とても不便な島なので、
『人里離れた孤島』
として、残されている。


私がこの島を訪れたのは、もう7、8年前のこと
随分時間が経ってしまい 記憶も随分薄れてしまったけれど
強烈な印象だった あの島のことを、時々思い出す。

そして、ハワイのことからふっと憶い出した今日
ジュラ島のことをちょっと書いてみようかとおもっている。




そもそも…

息子達が、ひょんなことから、縁もゆかりも無いスコットランドの
寄宿舎学校へ入学したことで、私もスコットランドと東京を
往復するようになってしまったことが、スコットランドとの
縁の始まり。

息子達の学校の休暇の度に、
お金持ちの クラスメート達 のように
カリブ海や、アフリカやギリシャやスイスへ 
( ましてやハワイなんかとんでもない!)
 行くのではなく...


行く先はいつも決まって

『 スコットランドの山岳地帯/地の果てに点在している小さな島々』






その一つの本当に地の果てにあるような、
摩訶不思議なジュラ島へは 
確かまだまだ 寒いイースター休みを利用しての
3泊旅行だったと思う。 

私達は、朝早くに スコットランドのかつての首都、
Perthにある家を出発して 
島へ渡るカーフェリーが出る町Kennacraigへと向かったのだけれど 
それはそれは遠かった〜


Kennacraigは、地図で見れば、PerthからGlasgowへ行くのと
あまり変わらないところに位置しているのだけれど
西側の深く 入り組んでいる入江の端にあって、
回り込まないとならないので、かなりの時間がかかってしまう。


グラスゴーからジュラ島の隣にある アイラ島へ、飛行機も出ているけれど 
時間が許す時には、ゆっくりとした旅をしたいと思う。


それに、せっかくの冒険旅行なのだから
車で何時間もトコトコ走っていけば
本当に地の果てにある島に向かっているのだ、と感じられる… 


道中で、ランチを食べたり、
コーヒータイムをしながら、のんびりしながら
やっとKennacraigに着いたとき、
私達の乗るはずフェリーは、もう既に出航した後。
乗り遅れてしまった!

それは、丁度夏時間に変わる日だったので
うっかり時間を1時間間違えてしまった、というハプニングでした。

しょうがないので海辺を楽しくお散歩しながら時間をつぶし、
次ぎのフェリーに乗って、
その夜一泊する予定の アイラ島に向かいました。


フェリーに乗って細長い入江を出るときの
夕日はとても美しかった!
今でも忘れられない...


2時間位の船旅だったでしょうか
やっと島に到着したころには
夜の帳がおりていて
オレンジ色の寂しげな電灯が
ぼんやりと静かな船着き場を照らしていました。


アイラ島の船着場を出た後は、ただただまっすぐに島を横断。
目指すは島の反対側にある海岸線に建つホテルです。


1日かけて、やっと着いた処は
素晴らしく素敵なブティックホテルで 
『とても洗練されたスコティッシュカントリーハウス』
のイメージでした。

お食事もワインも とても美味しく
朝から続いた、車の長旅の疲れもすっかり取れて
とてもリラックスした優雅な気分で、
一夜を過ごすことができたのです。

『 ホテルはやっぱ、こうじゃなきゃ!』

なんて、明日から泊まるホテルもそうだと決めつけて
私は、ウキウキしながら気持ちの良い大きなベッドに入って
本を開いて、半ページも進まないうちに
朝までぐっすりと眠ってしまいました。


次ぎの朝は、いよいよジュラ島へと出発です!


前日到着した所とは違う、反対側の海岸にある
とても小さな船着き場に着くと
すでに、車が数台待っていました。

数台乗ったら満杯になる位の小さなフェリーが、向こう岸から
到着して、乗っていた車が降りると、さあ、乗船です!

すぐ向こう側に見えるジュラ島へは、5分ぐらいで到着する距離ですが
橋がないので、島民の日常品も、郵便物も、なにもかもすべてを この船が
運ぶことになります。

島民のための荷物が詰まった小さなトラック2台に挟まれて
私達は船に乗り込みました。
その日狭い海峡は、かなり荒れていたので
小さな船は上下に 大いに揺れました!




ジュラ島には、野生のアカシカが約5000頭暮らしている中に
200人以下の人達がひっそりと暮らしています。

でも、さすがのスコットランド!

そんな島だけど、ウィスキー工場があり
[Isle of Jura]というシングルモルトは、日本でも売られています。

それから標高700メートルを越える3つの山
『パップス オブ ジュラ』という山があり
これがこの島を不気味なムードに創り上げています。

もう一つ、島の北端部にはかつて、作家ジョージオーウェルの別荘があり
『1984年』を彼はここで執筆しました。


これが、ジュラ島の簡単な概要

私は、普通旅をする時、前もって彼の地の情報を入れない様にしています。


どんな所に行くのか、全く知らないで行く、という
ミステリーツアー的な楽しみ方をしたいから
絶対に、その方が旅を楽しむことが出来ると私は思う!

逆のタイプの人、出発前にとても良く色々調べて行く人
東京から、ロンドンへ向かう飛行機の中で
ガイドブックをずっと読んで
色々チェックしている人を見かけます。
きっと、そういう人は、お勉強がしっかり出来るタイプなのだと思います。



私にとって、ガイドブック捲ったり地図を観たり
訪れた土地の歴史についての本を読んだりする楽しみは
旅行から戻って来てからのこと。

その土地を見ないことには
興味を持つことが出来ないのです。

こんな風ですから
旅行後にガイドブックを読んで

「あら。こんなレストランがあったんだー!」

と、ガッカリすることもしばしば...


だから、一緒に行く人には、ガイドブックをしっかりと
読んでおいてくれるタイプの人が良いのです。



さて、そのジュラ島の船着場から、島に一本しかないという
道を行くと、スコットランドの島らしくなく
意外と緑の多い林の中を走ったことを、なんとなく覚えています。

ガイドブックをしっかり読んでいる、夫にによると
この辺りにどうも素晴らしいカーデンがあるらしい、
ということなので、この林もその庭に関連していたのじゃないかと
思います。
その庭へは帰る日にでも行ってみようと、いうことで
私達の車は緑深い林を通過して、
先ずチェックインするためにホテルへ行きました。

Oh dear...

昨日のブティックホテルとは大違い!
1970年代に戻ったような、古い内装でした...

通された部屋も、なんだかおばあちゃまの家に来たような
そんな雰囲気で、柄の壁紙に、絨毯やカーテンまでが柄!
ついでに言えば 
夕食のお食事もおばあちゃまの家に行くと出てくるような...
良く言えば『家庭料理』というタイプのお料理でした。

でも、今回は冒険旅行です!

昨夜のホテルは、おまけおまけ=!

と、割り切って、このおばあちゃまの家ホテルを
楽しむことにしました。

このホテルの横には、ウィスキー工場があります
どうやらこの辺りが、この島の中心みたいです。

荷物を置いて、この小さな村を探索すると

とても小さな学校や教会や、お店屋さんがありました。


こんな、ふうに、暮らしている人もいるのだな...

どんな僻地へいっても
そこでしっかりと住んでいる人がいることを知って
私はいつもビックリします。


なんという静かな暮らしなのでしょう...


様々なモノに囲まれて、何かに追われて
いつもせかせかと忙しく動き回っている私の生活を思うと
少し、憧れてしまいます。



とは、言っても...

もし、私がこの島に暮らしても、
いずれにしても、多分同じことが始まるのです。
部屋に籠って,カサカサゴソゴソと何かを創り始める...

私は、どこで暮らしても同じことをするのだろうな〜
最近つくづくそう思う様になりました。



さて、夕食も終わってお部屋に戻りました。

窓の外には、淋しげなオレンジ色の電灯が幾つか見えるだけ

なんと静かな夜なのでしょう...

私は、その夜もぐっすりと朝まで眠り続けました。



スコットランドでは、朝食に燻製の魚を食べる習慣があるので
私は、その朝は魚を頂きました。
なんとなく、アジの干物を思いながら...



朝食後、私達はG オーウェルの別荘を訪ねることにしました。

これ以上車で行かれない,という一本路の行き止まりに車を置いて
そこからは、オーウェルの家があるという
半島の先っぽまでずっとつづく小路を歩きます。

誰も歩いていない、大自然の中の一本路です。

周りは、樹が一本も生えていないような草原です
岩肌の見える丘と、スコットランドの山岳地帯にはよくある
引き込まれてしまいそうな不気味な黒い池の合間を縫って進みます。

出発したころは、青空で太陽もでていたのだけれど
そのうち、天気は案の定わるくなり
太陽が雲に隠れてしまうと 
周りの景色は 少しづつ不気味なものに変わって来ました。

これぞ、ハイランド!というぞくぞくする世界の幕開きです!



随分歩いても誰にも会わず

どこにでもいる羊がいたり
この島には沢山いるアカシカの姿が丘の上に見えるだけでした。


1時間ぐらい歩いたでしょうか?やっと海が見えてきて
そして暫くすると、半島の先っぽが見えました。

オーウェルの家を見つけた私達は
目的地にやっと辿り着いて 嬉しくて、ホッとしたのですが

そこには、ただ家があるだけで、そして
現在はホリデーハウスとして使われているようでしたので
中を覗くことも出来ませんでした。

しょうがなく、海の方に降りて行き、少しして
また元来た路を戻ることにしました。



それにしても、こんなに淋しい所に、よくもオーウェルは 住んでいたものだと
本当に、驚いてしまいました。

着いた時には、また太陽は雲から出てきて、海も穏やかで
気持ちの良い波の音と風が吹いていたけれど

私は、冬のこの地の様子を想像してみました。


灰色の空には黒い雲が広がり始め
そこから雨が降ってくるのが見える。
暗い海は荒れていて
岩にぶつかってはじける波の音と
冷たい風の吹く音が周りに響いて...


アー...ここの冬はあまりにも淋しい。


天気が良いにもかかわらず、そんなことを考えていたら、
この穏やかな景色の裏側に隠れている

暗くて寥々たる荒野の続く地の果てにある美しい島

その恐ろしさが見えてしまいました。


そして、私はこの場所から早く離れたいと思ってしまったのです。


この感覚はスコットランドの荒野を歩いていると、時々感じる
ちょっと他では感じることの無い感覚です。



おどろおどろしい風景の中にいると
大きな自然の力と、どうしようもない寂寞感に
押しつぶされてしまうような 恐怖を感じてしまうのです。



あの明るくて気持ちの良い風が吹くハワイが大好きな私が
徐々に、スコットランドの地の果てにある島々に
魅されて行った理由...それは


あの恐怖感覚!



スコットランドの大自然の中に放り込まれると、その恐怖に怯え
とにかく、早く車に戻りたい,ホテルの部屋に戻りたい

と、思うのですが 

居心地よく 暮らしやすい都会に住んでいると、
その恐怖の感覚をすぐに忘れてしまいます。


そして私は、あの感覚を想い出したくなり
時々無性にスコットランドへ行きたくなってしまうのです。


あの感覚を味わえることが出来るスコットランドには
確かにハワイにはない魅力がある

私はそう思います。


*     *     *     *     *     *


気がついたら、スコットランドの
恐怖の魅力に取り憑かれてしまった私がオススメする
スコットランド旅行

いったいいつ頃行くのが一番いいのでしょう…?

誰もが断言するのは
『スコットランドを観光するには 夏が良い!』
一番美しい時期だし、日が長いので旅行には最適

確かに夜の11時になってもまだ夕方のような明るさの
スコットランドの夏は、旅行者にとってはありがたいけれど...



だけど私はその意見に大反対!

その理由は?

夏になると、荒々しい荒野にも葉が出て 花が咲き、美しい色が付く
そうなると、セピアカラーのあのおどろおどろしい、スコットランドの
景色が隠れてしまうからなのです!

ということは

一番怖いスコットランドを体験出来るのは真冬なのでしょうか?

というと、それがまた違って

あの岩肌のみえる、恐ろしげな山々に雪が積もってしまうと

それもまた、あの恐ろしい景色を柔らかくしてしまうのです!


つまり、スコットランドの山岳地帯に行くには、10、11月そして、3月がベストです!

その頃は、真冬のようには寒くないし、それになによりも
あのセピアカラーの荒涼として、おそろしい
なんともおどろおどろしい、
あの景色が待っているからです。


こんなことを書いていたら、私はまた久しぶりに
怖い怖いスコットランド山岳地方へ行ってみたくなってしまいました。